まだFAXを使っていますか?建設業界のアナログ体質が招く経営リスク

「うちは昔からこのやり方だから」「取引先がFAX指定だから仕方ない」。
建設業界の現場では、いまだにこのような声が聞かれます。

Chatwork株式会社が2023年10月に行った調査によると、建設業で社外との連絡手段としてFAXを「ほぼ毎日使用している」と回答した割合は39.5%にのぼります。 これは、他業界と比較しても依然として高い水準です。

しかし、その「当たり前」が、静かに会社の経営基盤を蝕んでいるとしたらどうでしょうか。
本記事では、建設業界に根強く残るFAX文化、すなわちアナログ体質がもたらす深刻な経営リスクを多角的に分析し、未来を切り拓くための具体的な解決策を提示します。

なぜ建設業界では今もFAXが根強く残っているのか?

多くの業界でペーパーレス化が進む中、なぜ建設業界ではFAXが現役で活躍し続けているのでしょうか。
その背景には、業界特有の構造的な理由が存在します。

理由1:取引先との慣習

建設業界は、元請けを頂点とした重層的な下請け構造で成り立っています。
古くからの付き合いがある企業間の取引では、長年の慣習としてFAXでのやり取りが定着しているケースが少なくありません。

自社だけがデジタルツールを導入しても、発注元や協力会社がFAXを使い続けていれば、それに合わせざるを得ないのが実情です。
特に中小企業にとっては、取引先との関係性を維持するために、非効率と分かっていてもFAXを廃止できないジレンマがあります。

理由2:現場での利便性

建設現場では、図面や仕様書、作業指示書などを紙で出力して確認する文化が根付いています。
メールで送られてきたデータをわざわざ印刷する手間を考えると、「受信すれば自動で紙が出てくるFAXの方が便利」と感じる現場作業員は少なくありません。

また、現場事務所のプレハブ小屋など、必ずしも十分なIT環境が整っていない場所でも、電話回線さえあれば利用できる手軽さも、FAXが重宝される一因と言えるでしょう。

理由3:ITリテラシーへの懸念

建設業界の就業者は高齢化が進行しており、国土交通省のデータによれば、就業者のうち約36%が55歳以上です。
長年アナログな手法に慣れ親しんできたベテラン層の中には、新しいデジタルツールの導入に抵抗を感じる人も少なくありません。

経営層がDXの重要性を理解していても、「従業員が使いこなせないのではないか」「導入しても現場が混乱するだけではないか」といった懸念から、デジタル化への一歩を踏み出せない企業も多いのが現状です。

見過ごせない!FAX利用が引き起こす5つの深刻な経営リスク

「今まで問題なかったから大丈夫」という考えは、もはや通用しません。
FAXを使い続けることは、企業を様々なリスクに晒すことになります。
ここでは、特に深刻な5つの経営リスクについて詳しく解説します。

リスク1:情報漏洩とセキュリティの脆弱性

FAXによる情報漏洩の最大の原因は「誤送信」です。 番号の打ち間違い、短縮ダイヤルの選択ミス、送る原稿の取り違えなど、人的ミスによる情報漏洩のリスクが常に付きまといます。

FAX誤送信の主な原因

  • 番号の入力ミス: 手入力による単純な打ち間違い。
  • アドレス帳の設定ミス: 登録時の番号や会社名の誤り。
  • 原稿の取り違え: 複数の書類を扱う際の確認漏れ。
  • 0発信忘れ: 外線発信時の「0」を押し忘れ、内線番号に近い市外局番へ誤送信してしまうケース。

一度送信してしまうと取り消しができないため、見積書や請求書、個人情報を含む書類が第三者の手に渡ってしまった場合、企業の信用失墜や損害賠償問題に発展しかねません。

さらに、受信したFAX用紙をトレイに放置すれば、誰でも内容を閲覧できてしまいます。 また、電話回線を利用するFAXは通信が暗号化されていないため、悪意のある第三者によって通信内容を傍受(盗聴)されるリスクもゼロではありません。

リスク2:業務非効率による生産性の低下

FAX業務には、多くの無駄な時間と手間が潜んでいます。

  • 送信作業: 原稿を印刷し、FAX機まで移動。番号を入力し、送信完了まで待機。エラーが出れば再送信。
  • 受信作業: 受信した紙を回収し、担当者へ手渡し。必要な情報を手作業でシステムに入力。
  • 管理・保管: 大量の紙書類のファイリング、保管スペースの確保、過去の書類を探す手間。

これらの作業は、従業員が本来集中すべきコア業務の時間を奪い、生産性を著しく低下させます。
特に、現場と事務所が離れている場合、FAXを確認するためだけに出社・帰社する必要があり、テレワークなどの柔軟な働き方の導入を阻害する大きな要因となります。

リスク3:コストの増大と環境負荷

FAXの利用は、目に見えるコストと見えにくいコストの両方を発生させます。

項目具体的なコスト内容
直接コストFAX機器の購入・リース代、インク・トナー代、用紙代、電話回線基本料、通信費
間接コスト書類の保管スペース費用、管理・検索にかかる人件費、廃棄コスト

一見すると少額に思えるかもしれませんが、年間で計算すると相当な金額になります。
インターネットFAXに切り替えることで、これらの消耗品コストや通信費を大幅に削減できる可能性があります。
また、大量の紙を消費することは、環境負荷の観点からも時代に逆行していると言わざるを得ません。

リスク4:人材不足の深刻化と採用競争力の低下

建設業界は、かねてより深刻な人手不足に悩まされています。 若手の入職者が少ない原因の一つに、3K(きつい・汚い・危険)のイメージに加え、「長時間労働」や「アナログで非効率な労働環境」が挙げられます。

デジタルネイティブ世代である若者にとって、FAXでのやり取りが主流である企業は「時代遅れ」と映り、敬遠される可能性があります。
業務効率化や働き方改革に消極的な企業は、採用市場での競争力を失い、ますます人材確保が困難になるという悪循環に陥るでしょう。

リスク5:「2024年問題」への対応遅延

2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、長時間労働の是正が待ったなしの課題となっています。
限られた時間の中で生産性を向上させるためには、業務のあらゆる無駄をなくす必要があり、FAX業務のような非効率なアナログ作業は真っ先に見直すべき対象です。

「2024年問題」は、単なる労働時間の問題ではありません。
これを機に業務プロセス全体を見直し、デジタル技術を活用して生産性革命を起こせるかどうかが、企業の将来を左右すると言っても過言ではないのです。

脱FAXへ!建設業界が今すぐ取り組むべきDX推進ステップ

アナログ体質から脱却し、経営リスクを回避するためには、段階的かつ計画的にDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることが重要です。
ここでは、FAXからの脱却を軸とした4つのステップを紹介します。

ステップ1:現状把握と課題の可視化

まずは、自社の業務フローの中で「いつ」「誰が」「どのような目的で」FAXを利用しているのかを徹底的に洗い出します。

チェックリスト例

  • FAXの送受信は1日に何件あるか?
  • どのような書類(図面、見積書、発注書、日報など)をやり取りしているか?
  • FAX業務にどれくらいの時間とコスト(人件費、消耗品費)がかかっているか?
  • FAXが原因で発生したミスやトラブルはないか?

現状を正確に把握することで、デジタル化すべき業務の優先順位が明確になり、具体的な目標設定が可能になります。

ステップ2:クラウドFAXへの移行

「取引先の都合で、どうしてもFAXをゼロにできない」という場合に有効なのが、クラウドFAX(インターネットFAX)です。

クラウドFAXは、インターネット回線を利用してPCやスマートフォンからFAXの送受信ができるサービスです。

項目従来のFAXクラウドFAX
機器専用のFAX機が必要不要(PC、スマホでOK)
場所FAX機のある場所のみインターネット環境があればどこでも
データ形式PDFなどの電子データ
コスト機器代、消耗品代、通信費月額利用料のみ(消耗品不要)
メリット操作が簡単コスト削減、ペーパーレス化、テレワーク対応

受信したFAXは自動的にPDF化されてメールで届くため、印刷する必要がなく、データの管理や共有も容易になります。
まずは従来のFAX機をクラウドFAXに置き換えるだけでも、大幅な業務効率化とコスト削減が期待できます。

ステップ3:ビジネスチャットや施工管理ツールの導入

FAXで行っていた連絡や情報共有の多くは、ビジネスチャットや施工管理ツールで代替可能です。

  • ビジネスチャット: 図面や写真などのファイルを簡単に共有でき、関係者間での迅速な意思疎通が可能になります。やり取りの履歴が残るため、「言った・言わない」のトラブルを防ぐ効果もあります。
  • 施工管理ツール: 図面管理、工程表、写真管理、日報作成など、現場管理に必要な機能を一元化できます。スマートフォンアプリに対応しているツールも多く、現場からリアルタイムで情報の報告・共有が可能です。

これらのツールを導入することで、情報の伝達スピードと正確性が飛躍的に向上し、現場の生産性を大きく改善します。

自社だけでツールの選定や導入を進めるのが難しい場合は、専門家の力を借りるのも有効な手段です。

例えば、建設業界に特化したデジタルトランスフォーメーションを支援するブラニューのような専門企業の知見を参考に、自社の課題に合ったDX戦略を練ることも、成功への近道となるでしょう。

ステップ4:段階的なペーパーレス化とデータの一元管理

最終的な目標は、FAXだけでなく、紙媒体でのやり取りそのものをなくしていくことです。
見積書や請求書、契約書などを電子データで作成・管理し、クラウドストレージサービスなどを活用して関係者間で共有する仕組みを構築します。

データが一元管理されることで、必要な情報にいつでもどこからでもアクセスできるようになり、書類の紛失リスクもなくなります。
また、蓄積されたデータを分析することで、経営判断に役立てることも可能です。

FAXからの脱却がもたらす未来:DXが建設業界をどう変えるか

アナログなFAX業務から脱却し、DXを推進することは、単なる業務効率化にとどまらず、企業の未来に大きな変革をもたらします。

生産性の向上と長時間労働の是正

無駄な作業が削減され、従業員はより付加価値の高い業務に集中できるようになります。
情報の共有がスムーズになることで手戻りやミスが減り、工期の短縮にも繋がります。
結果として、建設業界の長年の課題であった長時間労働が是正され、働きやすい環境が実現します。

技術継承と若手人材の確保

熟練技術者のノウハウや過去の施工事例などをデータとして蓄積・共有することで、スムーズな技術継承が可能になります。
また、ICTやドローンなどの最新技術を活用する魅力的な職場環境は、デジタルに慣れ親しんだ若手人材を惹きつけ、業界全体の活性化に貢献します。

競争力の強化と持続可能な経営

生産性が向上し、コストが削減されることで、企業の収益構造は大きく改善します。
変化に迅速に対応できる柔軟な組織体制は、新たなビジネスチャンスを掴む力となり、激化する市場競争を勝ち抜くための強固な基盤を築きます。
DXは、建設業界が未来にわたって持続的に成長していくための不可欠な経営戦略なのです。

まとめ:アナログ体質からの脱却は、もはや待ったなし

建設業界において、FAXは長年にわたり重要なコミュニケーションツールとしての役割を果たしてきました。
しかし、デジタル化が急速に進む現代において、その役割は終わりを告げようとしています。

FAXを使い続けることは、情報漏洩、生産性の低下、コスト増大、人材不足の深刻化といった、企業の存続を脅かすほどの経営リスクを内包しています。

「まだ大丈夫」という油断が、取り返しのつかない事態を招くかもしれません。
本記事で紹介したステップを参考に、まずは自社のFAX利用状況を見直すことから始めてみてください。
アナログ体質からの脱却という、未来への大きな一歩を踏み出すのは、まさに今です。

最終更新日 2025年12月17日 by kyubei